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食養生通信

食養生通信No1【夏の食養生】

22年05月27日

今回から始まりました「食養生通信」は日々の食生活を見直し、食によって心と体をすこやかにしていくための方法をお伝えするものです。「医食同源」と言う言葉がありますが、食べ物すべてが私たちの心と体を養っているのです。季節や体質に応じた食事を取ることで、病気を未然に防ぐことができるのです。

 

「未病を治す」という言葉があります。毎日の食事を季節や体質に合わせて取ることで、病気を未然に防ぐことができるのです。漢方の考え方の元になっている「陰陽五行」の考え方に基づいて、食を気をつけていけば大病を患うことはなくなります。食べ物には味があります。五味と言って、酸味は肝臓の働きをよくし、苦味は心臓を、甘未は脾臓を、辛味は肺臓を、そして鹹味(カン:塩辛い)は腎臓の働きをよくします。季節によって各臓器の働きが乱れやすくなるため、それぞれの味の食べ物をうまく活用することで臓器の働きを整えていくのです。春は肝臓、夏は心臓、秋は肺臓、冬は腎臓、そして季節と季節の切り替わりの時期である土用は脾臓が乱れやすくなるのです。

 

夏は暦の上では5月の上旬から7月の下旬となります。日々の生活では少しずれて季節を感じますが、暦は太陽の高さを基準に現わしているのです。正午が一番日が高くなりますが、最高気温は14時頃になります。日の力によって地面が温められるには少し時間がかかるため、ずれてくるのです。暦も同じで、日の高さは確実に高くなっていくのですが、地面が温まってそれを感じるようになるには少し時間がかかるのです。夏は気温が上昇して体温も暑くなってきます。しかし、私たちの体は36度台の体温を維持することが必要とされています。体のさまざまな働きは、この体温がベストになるように作られているからです。したがって、夏はいかに体温が上がり過ぎないようにさせるかが大きな課題となるのです。体温が上がり過ぎないようにさせるために、体は汗を出すことで対応します。汗は血液中の水分が元になっているのですが、汗が出やすいように心臓が血液を体表部分にしっかりと送り込んでいるのです。つまり、夏場は心臓がオバーワークしてしまう季節でもあるのです。

 

心臓は筋肉の塊であり、体の中でも一番熱い臓器でもあるのです。筋肉が動くと多くのエネルギーを消費することで熱を発生させるからです。心臓から送り出される動脈血は、酸素と栄養と熱を運んでいるのです。したがって、心臓が働きすぎると心臓自体に過剰な熱を持つようになり、苦しくなってくるのです。このような状態になった時に、心臓の過剰な熱を冷ましてくれるのが苦味の食べ物なのです。その代表的なものがゴーヤやコーヒー、そしてビールなのです。どれも苦い味がするのですが、コーヒーやビールは冷たくしなくてもほどよく心臓の過剰な熱を冷ましてくれるのです。沖縄の人が夏場にゴーヤをよく食べるのは、理にかなっているのです。クーラーがなくても暑い夏を過ごすことができるのは、ゴーヤをよく食べているからです。苦味の食べ物は他にもあります。枝豆やレタス、サンマのはらわた、緑茶、そしてキュウリなどです。ただ、多くの野菜は品種改良されて昔のような苦味はあまり感じられなくなってきました。

 

夏場はどうしても冷たい飲み物や食べ物を取ってしまいます。そのため、胃はどんどん冷えてしまい、動きが低下してしまいます。特に近年は冷蔵庫が普及して、年中冷たい飲み物や食べ物を取ることが当たり前になってきています。そのため、胃は年中冷えてしまい消化する力が低下しているのです。また、夏場は血液が汗の出させるために体表部分にかたよるため、胃や腸に十分めぐらなくなることでさらに冷えてしまうのです。そのため、食欲がなくなり、さらに冷たい物や飲み物を取ることが多くなって夏バテを引き起こすことになるのです。夏場は心臓のほてりを苦味の食べ物でほどよく冷まし、冷えた胃を辛味の食べ物で温めてあげなければならないのです。

 

辛味の食べ物の代表選手が生姜です。薬味に使われるワサビやネギ、ダイコン、トウガラシ、シソ、ミョウガ、練りがらし、そしてニンニクは辛味の食べ物です。夏場によく食べるソウメンや冷や奴、焼きナスやざるそばに冷やし中華、そして刺身に寿司には必ず薬味がついています。これらの食べ物はすべて冷やす食材なので、冷やし過ぎないように温める薬味が添えられるのです。日本にはこのような食に対する先人の知恵がしっかりと盛り込まれているのです。特に年中冷たい物を食べたり飲んでいる若い人たちは、夏こそこのような薬味をしっかり食べることが必要なのです。

 

漢方では、手足の筋肉は胃が養うと言う考えがあります。胃がしっかり食べ物を消化すれば手足の筋肉は身に付いてきます。逆に、胃が冷えて十分に消化ができないと手足は細くなってしまうのです。最近の子どもや若者は手足が細くてスラットしています。見た目はモデルさんのようでよいのですが、手足の筋肉が充分ついていないので持久力がなく、さらに低体温の人が多いのです。体温の熱の多くは筋肉が作り出しているからです。体温が低いと免疫力も低下し、カゼや感染症にかかりやすくなります。さらに治りも悪くなるのです。見た目ばかりを気にする若者や子どもは、ますます病気にかかりやすくなっていくのです。

 

これからの暑い季節を乗り越えていくためには、まずは冷たい飲み物や食べ物をなるべくひかえるようにして、時には温かい緑茶やコーヒーを取るとよいでしょう。そして薬味、特に生姜をさまざまな形で取るように心がけてください。そして1日1回はしっかりと汗をかくようにして、体にこもった余分な熱を出すようにしてください。できたら、夜はしっかりと湯船につかって汗をかくとよいでしょう。1日冷房のきいた部屋で過ごしている方はなおさらです。おそらく今年の夏は猛暑を通り越して酷暑となるでしょう。

 

漢方では心臓を元気にする生薬がありますが、なかでも最高のものとして昔から珍重されてきたのが牛の胆石なのです。牛黄(ゴオウ)と言いますが、「どうき、息切れに“救心”」でおなじみの漢方薬の主薬はこの牛黄なのです。ごく微量でも即効性があって、すばやく心臓の働きを正常にしてくれるため、2000年も前から高貴薬として使われてきました。この牛黄も苦い味がするのです。暑さで心臓が悲鳴を上げそうになった時は、牛黄を飲むとよいでしょう。また、酷暑が続く間は毎朝服用することで、熱中症予防にもなります。漢方薬もすべて五つの味でその作用を組み合わせて作られているのです。さらに、生薬も食べ物も体を温めたり、冷やしたりする作用があります。これを五性と呼んでいます。熱、温、平、涼、寒と分けて使います。体が熱を持っていれば冷やす寒の性質の生薬を使ったり、体が冷えていれば温める熱の性質の生薬を使います。食べ物も同じです。すべて五味五性を持っているので、これを使いこなすことが「医食同源」となるのです。

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